「執着・狂愛」というジャンルにおいて、韓国漫画の金字塔とも言える作品『泣いてみろ、乞うてもいい』。その中でも、全読者の情緒を奈落の底に突き落とし、同時にマティアス・フォン・ヘルハルトという男の「真の正体」を暴いたのが第33話です。
今回は、完璧な公爵が自らの「制御不能な衝動」に飲み込まれていく、あの伝説の回を徹底解剖します。

紳士の仮面がひび割れる「不都合な接触」
物語は、木から落ちたレイラをマティアスが受け止めるシーンから始まります。これまでの彼はレイラを「美しい飼い鳥」として見下していました。しかし、この33話の彼は違います。
レイラを抱きしめた瞬間、マティアスの頭はいつものように冷徹で冷静な判断を下そうとしますが、彼の体はあまりにも正直でした。
レイラの柔らかさ、体温、香りに触れた瞬間、彼の心拍は爆速し、血管に熱い熱が流れ込みます。
マティアスに抱きしめられた肝心のレイラの反応はというと…。
「大嫌悪」「ドン引き」。
このレイラの清々しいまでの拒絶が、マティアスの歪んだプライドに火をつけます。
「これでも耐えていた」という衝撃の真実
反撃されたマティアスはレイラに「淑女になれ」と澄まし顔で言い放ちます。そこですかさずレイラからの「公爵様こそ紳士じゃない」…まさにその通りなのです。
マティアスは自分の内側に渦巻くドロドロとした独占欲を、これまで必死に「紳士」という檻の中に閉じ込めて耐えていました。
それがレイラの一言で全否定された。
耳を噛まれ、痛みとともに理性の鎖が「プツン」と音を立てて弾け飛ぶ。
彼にしてみれば「これほど渇望しているのに手を出さない自分はなんて慈悲深い紳士なんだ」という、傲慢極まりない自負があったはずです。
マティアスの冷たい瞳が捕食者の色に染まる描写は、作画の神がかり的な美しさも相まって息を呑むほどの恐怖を放っています。
理性の爆発、そして「獣」への変貌
そこからのマティアスは、もう誰も止められません。これまでの冷徹でエレガントな公爵はどこへやら。レイラを逃がさず執拗にキスを繰り返すその姿は、まさに獲物を仕留める獣そのものです。
彼が行なっていることはレイラの意思を無視した最低な行為。しかしそんな最低な状況ですら、乱れた髪や熱を帯びた瞳、必死に彼女を求める余裕のなさが「芸術」に見えてしまう。
読者は「マティアス、最低だ!」と叫びながらも、その圧倒的な美貌の前に平伏するしかないのです。このシーンのマティアスは、レイラにキスをしながら自分を支配していた「理性」を殺し続けているようでした。
涙の後の「絶望的な渇望」
行為そのものの熱量が最高潮に達した時、マティアスの動きを止めたのはレイラの涙でした。
その涙を見た瞬間、彼は「自分は何をしているんだ」と我に返ります。しかし、ここでの彼の態度はどこまでもマティアスらしい。
「こんな女如きに……」
吐き捨てるように立ち去る彼の背中には、「一人の女にここまで無様に狂わされてしまった自分」への呆れと絶望が滲んでいます。欲しくて堪らない彼女を前に、また「冷徹な公爵」を演じなければ自分を保てない…。
まとめ:第33話は「地獄への片道切符」
第33話は、二人の関係がもう二度と元には戻れないことを決定づけた回です。
まだこの33話を未読の方、あるいはもう一度読み返したい方は、ぜひDMMブックス等で「マティアスの瞳の色の変化」に注目して読んでみてください。そこには、完璧な男が愛という名の泥沼に沈んでいく、最高の悲劇が描かれています。

